産まれぬことを望んだ命

 
産まれた瞬間に絶望して
泣いたままの赤子が
ずっと私の中にいる

朝起きたらすぐに精神薬を飲む毎日

そんな日々が
あと何日 あと何日と
続くのかと
気が遠くならないように 

だから
あと一日 あと一日だけと
刻一刻をやり過ごす

そうしてずっと生きてきた

だからずっと生きてきた

いざとなったら去る準備
物理的にだ しっかりね
できているからね

そうして なだめる
産声をあげたままの赤子が
産まれてしまった私の中には
ずっといる



拝啓、ユートピア


拝啓 ユートピア様

こちらはまだまだ搾取と猜疑と欺瞞の嵐で
心身ともに争いと暴力が絶えませんが
そちらの様子はいかがでしょうか。

もう動物は痛めつけられていませんか。
ヒトはお金に搾取されていませんか。
好きなときに安らかな死を選べていますか。
楽しいことだけで生を謳歌できていますか。
無償で与えることと受け取ることの喜びで満ちていますか。

もう痛くはないですか。
苦しくはないですか。
寂しくはないですか。

あなたたちがどうか
穏やかで楽しい毎日を
送っていることを願います。

暑い季節にも 寒い季節にも
煩わされることなく

どうぞお大事にお過ごしください。




かしこ



ユートピアの前例


あらゆる社会設計の変化も解放運動も
最初はみんな前例なんてなかったんだから
前例なんてなくてもやっていこう。
ギフトエコノミー無償循環。
ビーガニズム安楽死。
前例なんてなくても叶うって前例があるじゃないか世界。
前例なら自分がなればいいよ。

救われたい人生だった。
助かりたい人生だった。
何もかもだいじょうぶになりたい人生だった。
私が笑っているときに
どこかの誰かが苦しんでいると馳せて
笑顔に影が落ちることのない世界で生きたい人生だった。
私の幸福の限界値を抑制してくる
苦痛というものが憎くてたまらない。

人生は出逢いで左右されてしまう。
そんなもので取り返しのつかない過去を
紡ぐ法則であってほしくなかった。
そんな法則に則っていない世界だって可能だ
ということをあきらめられない。
ここをあきらめることほど怖いことはない。
いつ苦痛が降りかかってくるかわからない世界を私は肯定できない。

叶わないなら不参加しかない。
ストライキしかない。
ボイコットしかない。
それらさえ制限されている。
死の淵に経験する苦痛の深度が
あまりにも深すぎることが不合理すぎて
「?」が消えない。
もはや生存にも役立たない苦痛。
悪意と作為を感じてしまう。

倫理的潔癖症。
こんな私のような人間が発生することそれ自体
遺伝子の性格や法則の抜け道たるものを示すような希望だと。
そう言ってくれた人もいたっけな。
そうだといいけど。

もう二度と
苦痛を受け入れた法則宇宙には
生まれたくないけれど
既に此処に居ることが今すぐ覆せないのなら
後世同じような人への手紙をただ遺すしかない。
ひとりじゃないと思ってほしい。

無の前例になりたかった。
そうでなければ喜びと安心だけの前例になりたかった。
せめてそれを訴え続けた前例でいたい。
誰かにとっての前例に。
あらゆる苦痛の正当化にされてきた前提をぶち壊す前例に。
そういう意味で、もっと言うなら、前例なんてなくても突き抜けたい。
あなたもきっと、誰かにとってそうだろう。